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農・人・くらし

NPO法人 農と人とくらし研究センター コラム

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「農村生活」時評27 "農と食の結びつき一考"

 仙台圏は百万人の都市でかつ、全国有数の生産力の高い、豊かな農村地域に囲まれている。松島という江戸時代からの観光地もひかえ、都市近郊農業が発達してきた。しかし東北地方随一の都市圏が拡大して産地の移動、変貌も著しい。名取市は仙台市の南に位置し、いまでは都市開発の最前線だが伝統的に農業も盛んな、いわば問題の接点にある課題の多い地域である。もとより食と農の結びつき方には地域性を反映した多様な試みがあって良いが、ここの取り組みも精彩を放つ。
takara.jpg 発足以来、早5年目となる「東北農村生活研究フォーラム」が「生産者と消費者を結ぶ~"農"の現場で"宝"さがし!」をテーマにして名取市で、この夏の終わりに開催された。「フォーラム」当日の日程は名取市の産直グループの大型スーパーの店先の朝市(土曜・朝8時)と店内・直売コーナーの見学から始まり、二つの集落の2戸の産直農家の圃場見学、農家レストラン(重要文化財・洞口家住宅)での昼食と見学、および参加者の討論という充実した内容であった。
 この現場で生産と消費の結びつきを考えるのが集会の課題で、かつ小論の中味だが、様々な事情が背景にあるので単なる見学では感想以上のものは生み出せない。しかし私の目に映った精彩のいくつかについて書き連ねたい。そのひとつはいまでは全国何処でもみかける姿だが、女性グループの活躍の様子である。それは素晴らしいが、手のかかる野菜をつくり出荷、出店して宅配までやれば大変な忙しさであろう。もちろんどの農家でも男性が一緒に働いているのだが、見学対象が産直グループで、伺った勉強する側もほとんど女性ばかりで遠慮されたか、日程の中ではまったく男性に会わなかった。半世紀前には農家調査で生活や営農のことについて女性の意見を聞くのに苦労したが、今回は男性をつかまえられなかった。ここでの農と食を結びつける活動をさらに発展させるには、という課題についてみんなで話し合った。やれそうなことがいくつも提起されたが、私はやはり都市側か行政側から支援というか、仲立ちする人がいないと、農家男性の意見は聞いていないが、これ以上に農家が働く労力負担は無理ではないかと思った。
 現地見学で圃場めぐりをさせてもらったが、野菜を見て歩きながらこの散歩こそ、いまの都市住民が新鮮な農産物とともに求めているものではないかと感じた。そしてこの散歩活動の延長先に、社会的に求められている今日的な援農システムも展望できるのではないか。江戸中期、250年まえの建築物とうかがったが、豪壮な洞口家住宅の説明を聞いて、これがここの農村散歩の目玉にほかならないと痛感した。どこの農村でも農業生産が展開されていれば都会人の散歩には癒しの効果はあるが、ここではこの建物が散歩の終点になる。しかもこの重要文化財の値打ちのなかに、このでは集落の各戸がそれぞれ堀でめぐらされていることが含まれているという。この各戸の堀は車時代の道路拡張でかなり埋め立てられているが、まだ名残が何箇所もあるようである。この景観を住宅とともに保存し、仙台空港アクセス鉄道沿線として開発の進むこの地域にこそ、歴史的な宝として生かすことは、この圏域に住む現代人の役目のように思う。産直グループ応援だけでもなく農業支援だけでもなく、自分の地域づくりそのものとして、仙台圏の広範な市民の参加がえられる課題ではないか。この話し合いの中で私だけかもしれないが、この思いつきにわくわくして発言した。
 この集まりに参加して外の訪問者を受け入れてくださった女性グループには、個別にはいくつもあり、それらは構成メンバーが少しずつ重なり合っているらしい。その様子を立ち話で断片的に耳にして、ある意味ではこれこそ現代的な組織化方式のように感じた。つまり(イ)という目的のためにAというグループをつくるが、その活動を継続しつつ新しく(ロ)という目的のために別にBというグループをつくるためにAから何人か参加して新しいメンバーも加わって組織する。特定の集団になにもかも負わせるのではなく、ひとつのグループはひとつの目的を追求する。新しく仕事ができれば新しいメンバーで組織する。しかし経験の継承や発展のために幾人かはそちらにも加入するらしい。そうやって重層的に活動と組織を発展させてきたようである。
 こういう重層的な組織は中心メンバーは忙しいかもしれないが、地域で厚みのある活動が推進できる素晴らしいやり方ではないか。多面的な課題が地域にある以上、それを突破するにはこういう重厚な活動体こそふさわしい。

森川辰夫
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農と人とくらし研究センター

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