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農・人・くらし

NPO法人 農と人とくらし研究センター コラム

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やよいさん

 熊本県の酪農女性のリーダーの一人に山口やよいさんという人がいます。2ヶ月くらい前に「通信でやよいさんのことを紹介させて」と電話で話したまま、私がぐずぐずとパソコンに近づくのを先延ばししているうちに、熊本も豪雨が襲いました。山口さんの牧場に大きな被害が生じていなければ、と思いつつ、やっとこの文章を書いています。
 山口さんは、牛乳の消費拡大運動を、より実践的に進めるために「スローライフミルクネット」というNPOを立ち上げて活動されています。活動の一番の柱は「低温殺菌牛乳を使って、家庭で簡単に作れるモッツァレラチーズ」の普及です。
 私もまだ実物を知らないのですが、「温めた牛乳に酢を加えてできた白い繊維状の固形物(カード)を」90度の熱湯の中で餅のように丸くまとめる」と書かれていて、普通に酪農家が昔から自宅で作っていた牛乳豆腐とはかなり違うもののようです。
 山口さんたちNPOのメンバーはこのチーズを家庭で作ってもらいたいと、いろいろ出かけて講習会を開いたりしているそうです。
 実はこのNPOの会報やら活動を紹介した新聞やらと共に、大きな肉の塊りを送って頂いたのですが、その肉はジャージー種の肉で、私は初めて食べるものでした。ジャージー種の牛乳は濃厚で、だからホルスタイン種中心の酪農家でも我が家の周辺にも脂肪率アップのために1~2頭ジャージーを飼って一緒に搾っている家は多くあります。乳を搾るためには当然、子を産ませるのですが、メスが出来たら育ててまた搾ればいいけれど、オスが出来たら肥育農家(肉牛を育てる農家)に売らなくてはなりません。ところがジャージーは体格がとても小さいので肉牛としては効率が悪いので、2ヶ月くらいミルクを飲ませてから売っても一律1000円なのだそうです。ちなみに、交雑種と呼ばれるホルのメスに和牛の精液を交配して産まれたオス子牛だと10万円以上で売れます。
 で、山口さんの牧場ではジャージーのオス子牛を売らないで育てて、ジャージー肉として直売所などで販売しているそうです。
 その山口牧場は今年の冬、いろいろ牛のトラブルが重なって、かつてないほどに収入が激減したとかで、「お金がないから、牛肉ばかり食べてますよ」と言って大笑いしていました。(自家産のジャージー肉のこと)

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 今年はアメリカが大干ばつでとうもろこしや大豆の8割が枯れてしまったとか。すでに牛の飼料の値上がりが始まりつつあるようです。酪農業はいまやアメリカのとうもろこし・大豆・大麦なしでは成り立たない仕組みになっていて、これからまた苦難が深まることになるでしょう。
 うちの近所で、今月また一戸、大規模酪農家が倒産しました。酪農家の減少は決して後継者不足なんかじゃなくて、借金が返せる限度をはるかに越えてしまっての「倒産」が主な理由です。政府が進める「大規模化」は大規模借金化であり、大規模倒産につながるものでしかありません。

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 山口さんたちの「スローライフミルクネット」の名が示すゆったりした昔の暮らしを若い世代の中に新しい風として送り込めたら、農業ももう少し違う道を拓けるかもしれないなぁ、などと思いながら、頂いたジャージー肉の残り半分で牛肉ごろごろカレーを煮込んでいます。

渡辺ひろ子(元・酪農家)
『私信 づれづれ草』NO.44(2012.7.28発行)より転載
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