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農・人・くらし

NPO法人 農と人とくらし研究センター コラム

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「佐藤祐禎」という人

 長野県にお住まいの片倉和人さんという方がいます。「農と人とくらし研究センター」というNPOを立ち上げている方で、ホームページに私の「づれづれ草」もよく掲載して下さっています。片倉さんの実家が味噌製造業をされていて、毎年おいしい味噌をたくさん送って下さいます。今年も味噌が届いたのですが、その荷の中に一冊の文庫本が入っていました。
 歌集 『青白き光』   佐藤祐禎
 表紙を開くと、カバーの折り返しの部分に5首の歌が書かれていて、それは5首とも原発を詠んだものでした。
   いつ爆ぜむ青白き光を深く秘め原子炉六基の白亜列なる
   小火災など告げられず原発の事故にも怠惰になりゆく町か
   原発が来りて富めるわが町に心貧しくなりたる多し
   原発に勤むる一人また逝きぬ病名今度も不明なるまま
   原発に怒りを持たぬ町に住む主張さえなき若者見つつ
 表題の青白き光とは原子炉の火のことだったのです。中を読み進むと作者は昔は牛飼いをしていて、牛はとうにやめて稲作を続けている人で、妻と息子は教員で、跡継ぎがいないでも米作りにこだわって生きてきたようです。「きた」と言ったには、あとがき(再版のあとがき)を読んだからで、彼は今、福島原発事故によって自宅を離れ、避難生活を余儀なくされているのです。この歌集の初版は平成16年とあり、事故を経て23年12月に文庫本として再版になったのです。福島に生まれ育ち、農業一筋に生きて、52歳の時に初めて短歌を学び、アララギに入会するなど、以来ずっと短歌とともに暮らしてきた佐藤さんが75歳で初めて出した歌集です。
 彼の短歌の主題は原発です。町の人たちのほとんどが東電に絡め捕られていく中で、一人、原発に異議申し立てをし続けてきた彼の生き様がそのまま歌に詠まれています。
 原発の歌が多い中で、でも、農業や農家の暮らしを詠んだものも多くあり、特に、昔牛飼いをしていたこと、それをやめた自分を詠んだものもじんわりと心に沁みました。
   牛飼わずなりて今日買ふ牛糞の臭ひしみじみ嗅ぎゐたりけり
   老われの離農を人ら予測すと言へど簡単に止めてたまるか
 昭和4年生まれというから、80をとうに越えてなお、農業に生きようとしていた佐藤さんを田畑から引き離した福島原発事故。
 彼が事故のあと、どういう歌を詠んだか、ぜひ知りたいと思うけれども、しかし、一方でそれはむごい事かもしれない、かれは歌を詠むことを止めたかもしれない、とも思うのです。
 佐藤祐禎という人を知ることが出来てよかったと思います。片倉さん、『青白き光』を送って下さって本当に感謝です。佐藤さんの無念な思いを私たちはそれぞれが背負って生きて行かねばと思います。

歌集 『青白き光』 佐藤祐禎
    いりの舎 定価700円(税込)

渡辺ひろ子(元・酪農家)
『私信 づれづれ草』NO.47(2013.1.31発行)より転載

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農と人とくらし研究センター

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