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農・人・くらし

NPO法人 農と人とくらし研究センター コラム

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「農村生活」時評17 "初夢 日本語・世界遺産・沖縄"

 高齢になると、生体リズムの各局面でその変動幅が小さくなる。そのひとつが眠りが浅くなるということである。ぐっすりとやすんで一日の疲れをとりたくても、どうしてもうつらうつらとしてしまう。そうなると断続的にとりとめなく夢をみることになる。
 昨年末、話題になっていた水村美苗著「日本語が亡ぶとき」を読んで、日本の近代文学というものが世界的にみてひとつの奇跡のようなものだ、それは日本語の成立自体が歴史的、地理的な環境下で奇跡的な成立をしたということが基盤にあるからだ、ということを学んだ。世界的に英語全盛のご時世のなかで、日本人は不便で妙な言語生活下にあると引け目があったが、ここで著者によって指摘されている日本語の将来問題の是非はともかくとして、今の私はこんな拙い文章でもかけるという、恵まれた文化環境に安住していられるのだと痛感した。
yume.jpg この本で日本語の世界的歴史的な位置を考えているうちに、これは日本農業の境遇と同じではないかと思った。現代的に著名な農業地帯の、北米・中西部、ウクライナの穀倉地帯、ブラジル大平原などは歴史的には大人口や文明を養ってきた所ではない。日本列島は二千年来、移住民を含めてかなりの人口を養って、多様で精密な耕作を発展させてきた土地である。今日の国際経済環境では確かに小規模零細経営かもしれないが、それはこの列島の自然環境を生かして、われらの先祖が集約的な取り組みを堅守してきた経過の反映である。確かに産出額を重視するアメリカ農業的視点からいえば、日本農業はつまらない存在かもしれないが、多様な島々の自然条件の活用、二千年におよぶ歴史的な営みとその文化的蓄積からいえば、国ぐるみ自然・文化複合型の世界遺産である。
 洞爺湖サミットのメディアセンターの食堂で、リンゴ、みかん、ぶどう、梨、スイカを提供したら、各国のジャーナリストたちが"なぜ新鮮でおいしい果物がこんなにたくさんあるのか"と驚いたそうだが、私たち自身がスーパーの棚に慣れてしまって、一つの例ではあるが日本の果樹産業の恩恵など忘れている。さらに付け加えれば日常的に農山村の恵み、沿岸漁業の豊かさという食生活の構成部分も視野からはみでている。となるとそもそも世界遺産の登録資格がないかもしれない。
 日本は大陸の端に位置する島国だが、水村美苗氏にいわせると、その大陸との距離・位置関係が誠に微妙だという。海をへだてて離れすぎると文化が届かないし、もっと近いと直接大陸文明に支配されて独自の文化が育たないという。その島国の代表的というか、象徴的な地域が沖縄である。県外の人々にとっては観光の島であるが、この地を支配しているのは軍事基地ときわめて困難な農業のありかたである。先日、夢でなく正気の時に、「あの島は米軍基地がなければ県民は暮らせないのでしょう?」とまともに聞かれた事がある。沖縄の研究をした経験がないので、よく判らないが多分、観光と農業振興だけではいまの県経済を支えられないだろう。いまも雇用不足問題でいつもマスコミに登場する常連は私の勤務していた青森県と沖縄県である。
 先日亡くなられた加藤周一氏のTV追悼番組をみていたら、氏は民主主義における少数意見の代表として日本における「沖縄」の存在を指摘されていた。そこでまた別の文脈で、「日本の国際貢献は軍事分野ではなく、医療・医学だ」とも発言されていた。私は南アジアとも東アジアとも近く気候にも恵まれているので、全島の基地用地を病院・保養所化して、それこそ治療法の確立していない難病や小児がんのような患者を主としてアジアから、そして世界中から招くプロジェクトを展開する国際事業を夢見る。ここにはすこし怪しくなってきているが、伝統食による長寿県の経験もある。
 それだけでなく県民はかつて地獄の経験を有し、軍事基地で鍛えられたやさしさをもっている稀有の人々である。だから外国から来た病や傷に悩む人々を迎えうる人間的力量の持ち主でもある。後期高齢者医療制度問題で年寄りに金を使いたくない政府の本心はよく分かったが、沖縄をはじめ離島にもがんばって暮らしている、いま日本の高齢者に十分な医療をなせば、その知見は必ず加齢医学の進歩に寄与し、これからの世界中の高齢者の治療に役立つに違いない。
 年が明けてもいまなお世界では戦乱が続き、不幸な死者とともに多くの身体障害者がうまれているに違いない。地雷やクラスター爆弾被害者のこともある。そこで日本の形成外科、金属・プラスチックなどの物質材料科学、さらにはロボット工学の成果を駆使して、ほかならぬ基地沖縄の中にこそ、世界中の義肢注文に対応する国際再生リハビリセンターをつくり、何万という人々を迎える。中国ではこれから航空母艦を造るそうだが、日本はすでに半世紀前に卒業している。いまはイージス護衛艦も豪華客船も造れる世界的な造船技術を発揮して、いままでにない独創的な病院船をつくり、世界中を航海して若い医者の学習・研修も兼ね、難しい患者のそこでの治療と沖縄への入院患者の大量輸送を担当する。
 そうなるとすぐ金の問題になるが、いまの日本の軍事費と国際協力費の合体なら予算は何兆円規模でなんら心配はない。初夢に限らず、私の夢にお金がでてきたことはないが。

森川辰夫
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