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農・人・くらし

NPO法人 農と人とくらし研究センター コラム

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「農村生活」時評⑦ "山村の再生を願う"

yamaai.jpg この冬、幾つかの中山間集落から最後の住人が去り、消滅した所が全国各地にあるだろう。「限界集落」といういわば「業界」言葉がこれまでになく、マスメディアに紹介されたが、私達の生活そのものが色んな意味で「限界」に来ているためか、世間では印象強く受け入れられたようである。
 この話題との関連は分からないがこの頃、テレビ映像で谷の深い山村が紹介されることが多いような気がする。これまでの仕事で訪ねたむらが登場することもあるので、それとなく注意している。先日、高知県の4世帯・8人の集落の、この年越しの暮らしを淡々と映す番組があった。この地域ではないが、県内のもっと東寄りの山村で10年以上前に「集落移転」の調査をやり、小さな報告書にまとめたことがあるので、似たような景観でもあり印象深く視聴した。
 今時の世間の常識とは正反対だろうが、私は20世紀に日本で炭鉱が消滅したのとは少し性格が異なり、いまの世紀には日本の農山村が新しく再生すると確信している。年寄りが未来を信ずるのは特権というか、勝手だろうから、私のいわば「信仰」を語ることにしよう。その再生にはなんといっても、地域産業の再建が不可欠である。それにはいまはまだ、萌芽的な存在だが将来性のある多様な産業が想定されるが、基幹はいうまでもなく農林業である。なかでも中山間で農業が成立するようになれば、条件の良い地域はもっとしっかりした農業生産を展開してもらわなくては困る。そして林業はこれまでとは異なる取組みで、日本列島の資源としての山を生かしてもらう。
 これらは私の「農山村再生論」には当然の前提だが、このこともすでに世間の常識とはかけはなれている。しかしその議論はここではやりたくない。世界不況でも一億人がこの島々でなんとか生活せねばならない現実から出発して、この産業振興課題には論客、関係者が多いのだから、座して成り行きを眺めるのではなく、大いに振興策を議論して欲しい。いまこそ金融投機の偽りの世界の呪縛から脱して、農林業というかけがえのない「実体経済」と正面から取り組んでもらいたい。真の「美しい日本」は列島の骨組みをなす山村の再生なくしてありえない。そもそも今日いわれるところの地域の疲弊は、他ならぬこの山村の荒廃から始まったのだから。
 さて基幹産業としての農林業はその地域に定住する人々によって担われるだろうが、多様な産業は地域内外の多彩な人々が関わることが考えられる。別に私好みではないが、今の社会は「道路族」と「自動車族」に支配されていて、これからの日本社会はその遺産でしばらくは暮らすことになるだろうという現実をみると、この社会は日々、移動する人々を想定することになる。そうなると、山村に家族で暮らしても、あるいは高齢者だけが暮らしても、働き手世代が就業場所のある近隣地域、地方都市に通勤する、あるいは別に暮らすということがあっても、それなりに家族本位の人間的な安定した生活を営むことができるのではないか。
 だがそのためにもっとも必要なことは、この頃は逆風のためさっぱり流行らないが、勤め人の労働時間の短縮である。つまり働き手の移動時間の社会的保障である。定年退職して山に暮らすのも良いが、働き手世代がいかにして安定した働き方をするかに、この社会の未来がある。何時の世でも所得の多寡は大事だが、時間も貯蓄できない以上、もっと大事にしてもらいたい。

森川辰夫
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