農・人・くらし
NPO法人 農と人とくらし研究センター コラム
しょうえ(漬物入り納豆)
年末も押し詰まった30日、郡上市白鳥町に住むNさんが、わざわざ「しょうえ」を持ってきてくださいました。「しょうえ」とは、納豆に刻んだ漬物を混ぜた、白鳥町二日町辺りに伝わる郷土食です。郡上に長く勤めていた私も、Nさんから昨年の秋に聞くまで、しょうえのことを全く知りませんでした。
昨年11月の初め頃、隣町の小学校の先生から、3年生の子供たちに納豆を作ることを説明してほしいと頼まれました。それで、ずっと昔、仕事で納豆を農家の方たちと作ったことを思い出して、作ってみたところに、Nさんが近くまで来たからと寄ってくれました。その納豆は温度設定が低かったので失敗作でした。それをNさんに見せると「これはあかんなあ、温度が低いんやで。うちのお母さんはコタツに入れて上手に作るで」と言われます。
この時、Nさんのお母さんは納豆を作って、それで「しょうえ」をよく作るという話をされました。それはNさんの夫の大好物で、夫の友人たちも「しょうえ」ができると貰いに来る、二日町辺りでは、もう、Nさんのお母さんくらいしか作る人がいなくなった、貴重な食べものだということでした。
お母さんに納豆作りを教えてもらい、しょうえのことも詳しく聞きたいと頼むと、しばらく後に、「12月中ごろに、雪の降らんうちに聞きに来て」という返事が来たので、飛んで行きました。
Nさんのお母さんの納豆づくり
大豆(1升)を炒る 2つに割る 皮を飛ばす 煮る
煮た大豆をバットに広げて溝を切る(この時煮汁を取っておく)
バットにふたをずらしてかけ、コタツの中に入れる(2日くらい入れる)
これで納豆が出来上がり
しょうえの作り方
米こうじを用意する。
なすの塩漬け、しその実の塩漬けの塩出しをし、刻んでおく。
かめに米こうじと大豆の煮汁、漬物の汁(しょうゆでもいい)を入れ、納豆と刻んだ漬物を入れてよく混ぜる。
米こうじがまだ残っているという頃が食べ頃(20日目くらい)。
しょうえは、熱いご飯にかけて食べたり、焼き餅や茹でたじゃが芋につけて食べるのです。Nさんの夫(50代半ば)や同級生たちは、子供の頃から食べていたそうで、懐かしい貴重な食べものですが、Nさんの子供たちになると、もう食べないらしい。
Nさんがうちで話した時にも、お母さんの納豆作りは納豆菌を入れないで、ただ大豆を煮てコタツに入れておくと自然に納豆ができるというので、大豆を入れるモロブタが木製のもので、それに菌がしみついているのかと思っていましたが、使うのはホウロウのバットでした。わらを使う気配もありません。一冬に何回も作るので、家全体に納豆菌があるのでしょうか。
ちなみに、小学校でお話しするために、再度私が作りなおした納豆は、市販の納豆を種菌にしました(2回目には成功してよい納豆ができ、子どもたちに食べさせて、感動してもらいました)。Nさんのところでは、大豆にどこから納豆菌がつくのか不思議です。
不思議といえば、年末に届けてもらったしょうえは、なんとも不思議なものでした。汁気の中にこうじや納豆がなす、しその実と混じっているというものです。食べられないものではありませんが、私には、それほどおいしいものとも思えず、とてもご飯にかける気にはなりません。
その地域に、そこに暮らす人たちが食べ慣れて、おいしいと思う味、食べものがあるのだと、しょうえをいただいて、つくづく思いました。伊深に暮らす私たちが、今、「くさぎ」を伝えようと思っていますが、もしかしたら、くさぎも、他の地域の人たちにとっては白鳥のしょうえのようなものかもしれません。それでも、その土地の人たちのとっては大切な、おいしい食べもので、いつまでも食べ続けたいものには違いありません。
郡上では、赤だつの漬物とか、切り漬けの汁で渋抜きをした柿とか、白菜やかぶの葉の切り漬けに、鳥やイノシシの肉を一緒に漬け込んだ肉漬けなど、初めて食べるものが色々ありましたが、しょうえは、今回、初めて知ったものです。まだこういう食べものがたくさんあるのかもしれないと思うと、それを調べてみたいという思いとともに、消えていくことへの焦りも感じます。
Nさんは進んでしょうえを食べているようではなかったのですが、「お母さんのしょうえ作りを受け継いで、いつまでもご主人にしょうえを食べさせてあげてください」と、お礼状に書きました。
『ひぐらし記』No.19 2008.2.2 福田美津枝・発行 より転載
昨年11月の初め頃、隣町の小学校の先生から、3年生の子供たちに納豆を作ることを説明してほしいと頼まれました。それで、ずっと昔、仕事で納豆を農家の方たちと作ったことを思い出して、作ってみたところに、Nさんが近くまで来たからと寄ってくれました。その納豆は温度設定が低かったので失敗作でした。それをNさんに見せると「これはあかんなあ、温度が低いんやで。うちのお母さんはコタツに入れて上手に作るで」と言われます。
この時、Nさんのお母さんは納豆を作って、それで「しょうえ」をよく作るという話をされました。それはNさんの夫の大好物で、夫の友人たちも「しょうえ」ができると貰いに来る、二日町辺りでは、もう、Nさんのお母さんくらいしか作る人がいなくなった、貴重な食べものだということでした。
お母さんに納豆作りを教えてもらい、しょうえのことも詳しく聞きたいと頼むと、しばらく後に、「12月中ごろに、雪の降らんうちに聞きに来て」という返事が来たので、飛んで行きました。
Nさんのお母さんの納豆づくり
大豆(1升)を炒る 2つに割る 皮を飛ばす 煮る
煮た大豆をバットに広げて溝を切る(この時煮汁を取っておく)
バットにふたをずらしてかけ、コタツの中に入れる(2日くらい入れる)
これで納豆が出来上がり
しょうえの作り方
米こうじを用意する。
なすの塩漬け、しその実の塩漬けの塩出しをし、刻んでおく。
かめに米こうじと大豆の煮汁、漬物の汁(しょうゆでもいい)を入れ、納豆と刻んだ漬物を入れてよく混ぜる。
米こうじがまだ残っているという頃が食べ頃(20日目くらい)。
Nさんがうちで話した時にも、お母さんの納豆作りは納豆菌を入れないで、ただ大豆を煮てコタツに入れておくと自然に納豆ができるというので、大豆を入れるモロブタが木製のもので、それに菌がしみついているのかと思っていましたが、使うのはホウロウのバットでした。わらを使う気配もありません。一冬に何回も作るので、家全体に納豆菌があるのでしょうか。
ちなみに、小学校でお話しするために、再度私が作りなおした納豆は、市販の納豆を種菌にしました(2回目には成功してよい納豆ができ、子どもたちに食べさせて、感動してもらいました)。Nさんのところでは、大豆にどこから納豆菌がつくのか不思議です。
不思議といえば、年末に届けてもらったしょうえは、なんとも不思議なものでした。汁気の中にこうじや納豆がなす、しその実と混じっているというものです。食べられないものではありませんが、私には、それほどおいしいものとも思えず、とてもご飯にかける気にはなりません。
その地域に、そこに暮らす人たちが食べ慣れて、おいしいと思う味、食べものがあるのだと、しょうえをいただいて、つくづく思いました。伊深に暮らす私たちが、今、「くさぎ」を伝えようと思っていますが、もしかしたら、くさぎも、他の地域の人たちにとっては白鳥のしょうえのようなものかもしれません。それでも、その土地の人たちのとっては大切な、おいしい食べもので、いつまでも食べ続けたいものには違いありません。
郡上では、赤だつの漬物とか、切り漬けの汁で渋抜きをした柿とか、白菜やかぶの葉の切り漬けに、鳥やイノシシの肉を一緒に漬け込んだ肉漬けなど、初めて食べるものが色々ありましたが、しょうえは、今回、初めて知ったものです。まだこういう食べものがたくさんあるのかもしれないと思うと、それを調べてみたいという思いとともに、消えていくことへの焦りも感じます。
Nさんは進んでしょうえを食べているようではなかったのですが、「お母さんのしょうえ作りを受け継いで、いつまでもご主人にしょうえを食べさせてあげてください」と、お礼状に書きました。
『ひぐらし記』No.19 2008.2.2 福田美津枝・発行 より転載
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