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農・人・くらし

NPO法人 農と人とくらし研究センター コラム

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農業で懐かしさを取りもどす試み 1.風土にいのちを托す

 

 東京電力福島第一原発事故が風土に根ざして暮らしをたててきた人々に与えたダメージを想うと心が晴れることがない。自ら命を絶った有機農業者や酪農家がいたことを新聞で知った。私が暮らす地域は今回の地震と原発事故の影響を直接被っていない。しかし、放射能汚染により、住み慣れた地を追われ、暮らしを奪われた人々を想うと、なんともいたたまれない気持ちになる。私自身も風土を強く感じながら生きていこうとしていたから。そうした自分の生き方に、なにかが無言で再考を迫ってくる。おまえはこうした事態を少しでも予期していたのかと。
 6月末、岡谷市の有機栽培食品販売店カンビオで行われた上映会で、映画「祝の島(ほうりのしま)」を観た。山口県の中国電力上関原発建設に反対する祝島の人々の暮らしを追った纐纈あや監督、2010年のドキュメンタリー映画だった。
 日々の暮らしの場を守るために28年の歳月にわたって反原発を唱えて闘ってきた人たちがいたことをこの映画で知った。映像は、何気ない暮らしのひとこまを写し撮っていく。祖父が30年の歳月をかけて築きあげた、城砦のような石積みの棚田でひとり田を作り続ける77歳の男性にカメラが向けられる。ウニを採りに海にもぐり磯でヒジキを刈る67歳の女性漁師。一人暮らしの年寄りが一室に集まりコタツを囲んで何をするでもなく過ごす夕べ。彼らの生きる姿と彼らに生きる糧を与えているものが映像となって、言葉もなく私たちに語りかけてくる。それは、原発の対極にあるものが何であるのかをはっきりと告げていた。
 映像でみる祝島の人々の姿は、私にとって一つの救いだった。3月11日以来、私は呆然と立ち尽くしたままのような日々を送っていたが、この映画を観て、また以前のように未来に向けて一歩を踏み出す気持ちを取り戻した。郷里の岡谷に帰って、この4年間余り歩いてきた道を、再びゆっくりと歩んでいけばいいのだと思えた。

(『長野県農業普及学会報』第16号 2011年9月より転載)
片倉和人(農と人とくらし研究センター代表)

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