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農・人・くらし

NPO法人 農と人とくらし研究センター コラム

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二つの雑誌(下) 出会い

 中村さんの言葉を借りれば、私は中村さんと16年前にすでに出会っていたが、鶴見俊輔さんとは、今回はじめて出会うことができた。
 鶴見さんは「上野千鶴子が私の戦争責任を厳しく問い詰めたように、何を聞いてくれてもかまわない」と言って話を終えた。聴衆は20人強で、私が質問の口火を切った。
 京都に住んでいたときに何度か講演を聞いたこと、著作を読んでその思想に個人的にとても共鳴したこと、とくに、言うこと(思想)と実際にやること(行為)がかけ離れていない点が大切であることを学んだことを、まずお伝えした。そして、影響の一例として、戦争責任の取り方について、鶴見さんたちの「坊主の会」を真似して、15年間、8月になると丸坊主にしていた自分の体験を披露した。父が日本軍の兵士だったので、私にも何がしかの戦争責任があると感じていたからである。長い前置きをした後、「鶴見先生が他の戦後の日本の知識人と違って私に魅力的に見えたのは、今日のお話のなかで先生は自分の偏見としてUSAを信用していないと繰り返していたが、そのアメリカのプラグマティズムに由来しているのではないか。先生はご自身ではどう思っていますか」と問うた。
 鶴見さんは、しばし沈黙した後、「ありがとう」と一言いって、私の質問には直接答えず別のエピソードをいくつか披露された。以後、誰の質問に対しても、直答することなく、関連のありそうな話題や体験談を提供することを繰り返した。講演と質問は三時間に及んだ。会が終わって参加者の一人が私に、「鶴見さんはとても嬉しそうな顔をしていたから、あなたの発言は核心を突いていたのだと思う」と教えてくれた。残念ながら、私は鶴見さんの表情の変化に気づく余裕はなかった。
 鶴見さんは、戦後まもなくの著書『アメリカ哲学』の中で、プラグマティズムをあえて訳せば「行為主義」がいいと書いている。私は、鶴見さんが米国から学んだプラグマティズムの思想が戦後の「生活改善運動」のなかにも潜んでいたと思っている。それは米国が育んだ思想の中で最も良質なものである。もしその思想を、生活改善の脈絡の側に手繰り寄せることができるのなら、両者の関係を明らかにして後世に伝えたいと思う。

片倉和人(農と人とくらし研究センター代表)
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