忍者ブログ

農・人・くらし

NPO法人 農と人とくらし研究センター コラム

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

若きセールスマンの芋作り

 息子と、彼の友人M君が、わが家の空き畑でさつま芋を作っています。蔓が伸びて、順調に育っていますが、草も負けずに育ち、今は草取りに追われているようです。 彼らは3年ほど前に、わが家の山の果樹園にりんごの木を植え、時々手入れをして育てていましたが、いっこうに実がならず残念がっていました。そこで、成果がもっと早く得られるものをと思ったのか、この春「オバサン、畑で何かを作りたい」とM君が相談して来ました。
 「沖(と呼んでいる地名)の畑なら空いてるで、そこで作ったらいいやん、今から作るんなら、手間がかからんさつま芋なんかいいんやない」と答えると、彼らは早速その準備を始めました。家人はその話を聞いて、沖の畑をトラクターで起こしてやりました。
 さつま芋の苗は叔母(義母の妹)が作るのをいつも分けて貰っているので、彼らも義母を連れて叔母の所に行き、50本ほど分けて貰ってきて、義母の指導のもとに鍬で畝を立て、苗を挿していきました。その後、晴天ばかり続いたので、苗がつくかどうか心配していましたが、何とか9割ほどが根を張り、芽も伸びだしました。これに気を良くした彼らはもう2本畝を立て、どこかで新品種とかの苗を買ってきて、挿したようで、そこには品種名を書いたラベルが立ててありました。
 ところで、これまで彼らと書いてきましたが、実際は、息子はM君に引きずられて嫌々やっていて、苗挿しを指導した義母は「M君は一生懸命やっているのに、あの子はなっちょらん、全然やる気がない」と怒っていました。休みの日にする手入れも、いつもM君に引っ張られています。M君は一人で草引きに来ていることもあり、時々息子に「福ちゃん、オジサンにばっかりやらせんで、ちょっとは自分でもやらなあかん」などと小言を言っています。家人は時々枯れた苗を補充したり、草引きや水遣りをやって、時々畑でM君と一緒に仕事をしているようです。
 M君はセカンドカーに軽トラックを持っていて(彼の家は農業はないのに)、休みの日はそれに乗って畑にきます。畑仕事が終わるとうちに来て、それがお昼時や夕飯時であれば、家族と一緒にご飯を食べて、殺風景なわが家の食卓を賑わしてくれます。
 そんな時のある日、「M君は百姓家に生まれたわけでもないに、何でこんな畑仕事をするん」と聞いたら「なんか、自分で作ったという実感を持ちたかったんです。たまたま福ちゃんちが百姓やってるんで、ここでならりんごを作れると思ったんやけど、りんごが成らんで、他に何か作りたいなと思って」そして「僕ら自動車売っているやないですか、そやけど僕が一生懸命売らんでも、車が欲しいと思ったらお客は買いに来て売れていく。そやけど畑仕事は僕がやってやらんとさつまいもも育たん、ああ自分でやっているっちゅう実感があるんです」びっくりびっくり。M君曰く「福ちゃんはこうも土地持っとるのにやりたがらん、小さい時からずっと田植えや稲刈り手伝わされて嫌になったと言っとった。僕にしてみればうらやましい限りです」。
sweet.gif 息子によれば、M君はトヨタ車販売会社の営業所でも実績1,2を争うセールスマンなのです。その彼が、物を作る実感を得たいと言って畑仕事をする。30歳の若者が、成績優秀のセールスマンの彼が、土に触れ、土の中から確かなものを作る手ごたえを求めている。嬉しいのか、感心したのかなんとも言えない感情が湧いてきました。
 「オバサン、さつま芋が採れたらどうしよう、食いきれんよ」と言うので、「M君のトラックに積んで売りに歩くか、焼き芋屋でも始めようか」などと戯れています。それまでには休み毎の草引きが続きます。今は、若きセールスマンの芋つくりが楽しみ事の1つとなっています。

『ひぐらし記』No.15 2007.7.15 福田美津枝・発行 より転載
PR

農と人とくらし研究センター

Research Institute for
Rural Community and Life
e-mail:
Copyright ©  -- 農・人・くらし --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Photo by momo111 / Powered by [PR]

 / 忍者ブログ