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農・人・くらし

NPO法人 農と人とくらし研究センター コラム

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楽しみは

 楽しみは 今年生まれた熊鷹の 餌ねだる声 聞き分けしとき
 三丸 祥子

 中津の「鳥プロ ○丸S子さん」として再三登場してきた三丸祥子さんの作品です。短歌ですが、これは『独楽吟』といって、「楽しみは」で始まって「……の時」で終わる形の独特の短歌なのです。
 福井の「歴史のみえるまちづくり財団」という団体の主催する「第十四回平成独楽吟」に応募したこの作品が「福井新聞社賞」を受賞したのです!!
 さすが、わが鳥師匠!!
 それで今回より勝手に実名で願うことにしました。三丸さんは、鳥プロの上に、植物プロであり(実際に、職業訓練校に通って、庭師の資格を取り、仕事にしていた時期もあったから、これは本当に「プロ」です)、虫(蝶やとんぼ)も好きだし、俳句も短歌も詠むとてもすてきな人です。草の根の会のメンバーです。今は熊鷹に夢中です。
 3月15日に福井市で授賞式があって、福井まで行ってきて、「来年はみんなで作品応募して、誰か賞を貰ったら、みんなで福井に行こうよ」と言っています。
 三丸さん、おめでとう。
 ところで、この『独楽吟』なる短歌の形、私は今まで知りませんでした。
 「橘 曙覧(たちばな あけみ)」という江戸時代末期の福井の歌人がいて、あ、「あけみ」と言っても男の人です。
 この人、生涯に千二百首以上の短歌を残したらしいのですが、とくに『独楽吟』と題した「楽しみは」で始まり「……の時」で終わる連作52首が秀逸なのです。
 彼はとても貧乏で、その貧乏な暮らしの中で、日々、小さな喜びや楽しみを見つけて短歌に詠んだのが独楽吟です。
 例えば
 たのしみは まれに魚烹て 児等皆が うましうましと いひて食ふ時

 たのしみは 昼寝せしまに 庭ぬらし ふりたる雨を さめてしる時

 たのしみは 常に見なれぬ 鳥の来て 軒遠からぬ 樹に鳴きしとき

というようなのが橘 曙覧の作品です。
 彼のことは、福井でもずっと忘れられた存在になっていたそうです。それがにわかに注目されるようになり、福井の町起こしの柱の一つになって来たのには意外なエピソードがあったのです。
 1994年、天皇皇后が訪米した時、歓迎式典で当時の大統領クリントンが歓迎スピーチの最後を独楽吟の一首でしめくくったのだそうです。

 たのしみは 朝おきいでて 昨日まで 無かりし花の 咲けるを見る時

 もちろん、クリントン自身が橘曙覧を知っていたわけじゃなくて、ホワイトハウスのスピーチ起草室の一人が書いた原稿なのですが、彼はハーバード大学でライシャワー教授に学び、ライシャワーから『日本文学選集』(ドナルド・キーン編)を教えられていたので、その中に入っていた独楽吟8首を思い出して、大統領スピーチの原稿に引用したのです、とさ。
 日本人からほとんど忘れ去られていた橘曙覧がアメリカから逆輸入のような形で脚光を浴びることになったわけです。
 さて、橘曙覧という人は、裕福な商家に生まれながら、生家を出て、定職をもたず、国学者・歌人として生き、藩主からの士官の誘いも断って、極貧の暮らしを選び57歳で死んでいるのですが、彼の独楽吟にも出て来るように、ちゃんと結婚して子どもも6人(うち3人は幼児期に病死)もうけているのです。極貧の自由人にして家庭人でもあった。妻がえらかった、というべきかも…。
 「足るを知る」くらし。少しは私もその境地に近づきつつあるかなぁ、と思うのですが、う~ん、まだまだ家の中にモノはあふれているし、スーパーやコンビニにもしょっちゅう行くし…。
 まだまだですなぁ。
 「楽しみは………の時」と、一日一首へたな独楽吟を詠むことで「足るを知る」暮らしに到達出来るのかもしれないなぁ。

渡辺ひろ子(元・酪農家)『私信 づれづれ草』NO.15(2009.4.20発行)より転載
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