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農・人・くらし

NPO法人 農と人とくらし研究センター コラム

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ノビ

 ノビは30才のフィリピン女性です。漁師の夫と6才の息子・4才の娘を残して、2月初めから一ヶ月間、日本に「畜産の研修」のために来ていました。
 ノビの住む島の周辺は魚もたくさん捕れて暮らして行くのに困らないけれど、彼女は小学校しか出ていないので、二人の子供はぜひ大学にまでやりたいと願って、そのためのお金を自分で稼ぐために牛飼いになろうとしています。
 ノビの島には井上さんというボランティアの日本人がいて、カウプロジェクトというのを立ち上げ、肉用牛をノビたちが彼から借り受け、子牛が生まれたら一頭を返すと次の子牛から自分のものになる、というシステムで牛飼いとしての自立を援助しているらしいです。
 今回の研修は、福岡県国際交流センターの主催で『NPO等共同人材育成事業』という事業で「NPO女性エンパワーメントセンター福岡」の協力によるものです。エンパワーメントのメンバーが私の知人で「どこか研修受入先を紹介して」と頼まれました。
 いろいろあって、最終的には築上町の大石牧場にお願いしました。大石牧場の後継者の嫁さんがフィリピンの人で、しかも、年齢もノビと同じなので、意思疎通という最大の問題が難なくクリア出来て、ラッキーでした。
 本当は肉牛の牧場が良かったのだけれど、私が無理を言えるのはやっぱり酪農家しかいなくて、だから、ノビのために役に立つ研修になったかどうか…。
 ノビの島での牛飼いは、原っぱに放牧して、雑草を自由採食させるというシンプルなもので、穀物などのいわゆる飼料は一切やらないそうです。日本の牛飼いは牛舎の中に牛をつないで、いろんなエサをいっぱい与えて、一日中ウンコ掃除ばかりしている、と少々あきれぎみでした。
 朝晩の仕事の合間に、私が車で近隣の牧場を案内したり、いろんな友人に会わせたり(というより、英語がしゃべれない私は、単語を並べるだけで、それでもノビは少し日本語も分かるので何とか通じているようなのだけど、ノビの話す英語を私は全く聞き取ることが出来なくて、英語を話せる友人の所に助けを求めに行ったというのが実態です)、それなりにノビの少ない日本での研修期間に実りある経験を…と心を尽くしたつもりです。
 ノビは大変な努力家で勉強熱心で、いろいろ質問します。私の説明が不十分で理解出来なくても、その夜、インターネットなどで調べて、翌日には「OK!、よく分かった」となっているのです。
 例えば、道路脇のいちぢく畑を見て「あれは、何?」でも、いちぢくって英語で何ていうの?分からなくて、いろいろ言って、最後には断面の絵を描いてみたりしたけど「よく通じてないなぁ…」ところが翌日、「いちぢく、OK!」なのです。エライねぇ。
 豊前市の肉牛の牧場の見学に行ったら、ちょうど大量の「おから」を給与しているところでした。「あれは何?」う~ん、大豆って何て言うんだっけ?よく分からないけど、とにかく「ビーンをマッシュして、トーフという食べ物を作る」「トーフは人間がイートする」「トーフのカス」「う~ん、カスって、分からないよねぇ、カス、う~ん、ゴミ?」などという、ほとんど禅問答。
 でも、翌日、ノビは「ソイビーンね、OKよ」
 そうか、大豆はソイビーンなのか、そういえば、トヨエツがコマーシャルやってる大豆のバー状食品の名がソイジョイだったよなぁ、そうかぁ…。
 勉強になります。
 勉強家で意欲的で陽気で酒豪のノビはカウプロジェクトの「ボス」井上さんにとてもかわいがられ信頼されているようです。きっと将来、島の牛飼いのリーダーに育って行くでしょう。
 夫と二人で南の島で、半農半漁でのんびりゆったりとくらして行けたら、そんな生活がずっと子どもへ、孫へと続いて行けたら…と思います。でも、「子どもたちを大学へやりたい」「娘を看護師にして、出来れば日本の病院で働けるようにしてやりたい」というノビの強い思いは、彼女の生きて来た30年の暮らしの重さから発するものだろうから、それに対して「大学に行って、日本で働いても幸せになるとは限らないよ」なんて言えません。
 ノビの願いと同じ願いをみんな強く求めた時代が我々にもあって、そこをみんな登って、登り詰めて、社会全体が崩落してしまった日本という国の我々だから、「貧しくても、自然の恵みの中でゆったりとくらせるのが幸せ」などと言えるのですね。ノビには言えない。
 ノビの夢がかなうといいね、ガンバレ、ノビ。

渡辺ひろ子『私信 づれづれ草』NO.7(2008.4.7発行)より転載。
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