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農・人・くらし

NPO法人 農と人とくらし研究センター コラム

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備忘録 鈍行の楽しみ

yama.jpg 急ぐ旅でなければ、各駅停車の電車に乗って移動する。地方を走る平日の電車の乗客はまばらだ。私の旅の道づれは、ゆっくり移り変わる車窓の風景と、脳裏に去来するとりとめもない断想たちである。
 冬のよく晴れた日には、車窓から遠く雪をいただいた山々が見わたせる。甲府盆地だったら、北に八ヶ岳連峰が横たわり、南に富士山の頂が顔を出している。家々が重なり人間が多く住まうのは平らかな低地なのだが、山脈の存在は圧倒的で、日本列島に君臨しているのは人間ではなく、頭に白い冠をいただいた山々だと想わずにいられない。
 甲府から身延線に入る。終点の富士駅までに38駅ある。信州の険しい山ばかりみて育った私には、高校生のとき初めて乗った身延線沿線の山並みは、そのやさしい姿ゆえに強い印象を残した。一人で静岡に住む姉に会いに行った。あのとき身延線を使ったのは好奇心と旅費の節約からだったが、今度岡谷から静岡に出かけるのに身延線に乗ったのは別の理由からである。
 三人連れのお婆さんたちが乗ってきた。「自分の生れた在所は、電車で通るだけでもなつかしい」と一人が車窓から見える対岸の山里を指さしている。のんびりしたやりとりが耳にここちよい。三駅ほどで降りていった。
 なにげない日常が、地面から少し浮き上がって、日常でなくなる時間が、山里をゆく各駅停車の電車の中に流れている。

片倉和人
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農と人とくらし研究センター

Research Institute for
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