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農・人・くらし

NPO法人 農と人とくらし研究センター コラム

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備忘録 新緑

woods.jpg 新緑の季節になると決まって、教室の窓から新緑をながめていた小学生の頃を思い出す。天竜川の谷あいにあった校舎は古い木造で、教室の窓の外一面に対岸の山が迫っていた。冬の間、山肌は黒い森と枯れ木のツートンカラーでおおわれ、何の変哲もない殺風景な姿をみせているのだが、毎年春が来ると一変し、一斉に芽吹きはじめた樹々は、一本一本微妙にちがう色をまとい、しばしの間その個性をあらわにする。私はその不思議をあかず眺めていた。
 やがて初夏の日差しとともに新緑の繊細さは失せ、夏には力強いが単調な濃い緑一色に変わる。小学生のときは、ひ弱だったり、勉強が全く苦手だった同級生たちも、みなそれなりの大人に変わっていったように、私の子供もいつの間にかそれぞれ緑を深めて森の中にまぎれていった。小さな子供はみな、いたいけな繊細さのなかに個性を輝かせていて、それゆえに愛しかったのだと、今年も新緑の季節をむかえて想う。
 逆に私はといえば、一様に緑の濃さを競っていた季節を通り過ぎ、紅葉の時期を迎えている。もうそろそろお前の自分の色を出してもいいのだよ、と心の声が語りかけてくる。どんな色が出てくるのか、自分でも見当がつかない。ひょっとしたら銀杏や楓のように鮮やかな色合いが、この緑の葉の中に隠されているのかもしれない。しかし、それもひとときで、いずれは枯れて地に落ち、くすんだ茶色に変わり、土と化していくのであろう。

片倉和人
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農と人とくらし研究センター

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