農・人・くらし
NPO法人 農と人とくらし研究センター コラム
おだやかな表情のゆくえ(中)若者のビジョンが示すもの
1日目は、初めて顔を合わせた研修生と村人が互いに打ち解けあえるように、ウォームアップの楽しい活動(アクティビティー)に多くの時間を割いた。村人だけでなく、外国人である研修生たちも、初対面の不安を抱いていたからである。すぐに会場は笑い声と笑顔に包まれた。この雰囲気を作り出した時点で私の任務は半分以上終わったようなものだった。
2日目は一日費やして環境点検マップをつくる活動にあてた。午前中は参加者が4つのグループに分かれて、別々のルートに沿って村内を歩いて環境点検を行い、将来に残したい良い点と改善したい問題点を見つけてもらった。用意された昼食をとった後、午後はその結果を地図に落とし込む作業を行った。日中はじっとしていても汗が吹き出る蒸し暑さで、参加者は床にへたりこんで思い思いの格好で作業にあたった。
3日目の午前中は、地区の共有地で植林を行う環境イベントに参加を要請されていた。私たちは、村の有力者が土地を寄贈したという山麓まで車で運ばれて、総勢300人を数える村人や学校の生徒たちに混じって、この地に自生する何種類もの樹木を、草地と化した山肌に植える作業に汗を流した。村人との共同作業は楽しかったが、そのために多くの時間と体力を使った。この日が最終日なので、残り半日でワークショップを締めくくらなければならなかった。
午後の参加者は、仕事のないお年寄りと、月曜日にもかかわらず学校側の配慮で参加が許された女生徒だけで、前の日まで参加していた壮年の男女の顔がいくつか欠けていた。お年寄りのグループと学校の生徒たちのグループに分けることにした。2グループずつ4つのグループを作り、それぞれ共同で一枚の絵を描いてもらうことにした。当初予定していた身体を動かす演劇や、頭を使って行う知的な作業は、暑すぎて酷に思えた。
お年寄りたちのグループには、過去の暮らしの中にはあったが、今はなくなって残念に思っていることを絵にしてもらった。彼らが描いた絵には、水牛とともに田を耕作する姿や寺の境内で鬼ごっこをして遊ぶ子どもたちの様子があった。水牛は耕耘機にとってかわって姿を消し、子どもたちが昔のように寺の境内でいっしょに遊ぶことも少なくなったという。タイの山里の村にも確実に近代化の波は訪れているようだった。ちなみに、鬼ごっこと勝手に訳したが、タイでは日本の鬼にあたるのは虎だという。
他方、若者たちのグループには、構想図(コンセプション・マップ)と称して、村の地図の上に将来の姿(ビジョン)を描いてもらった。利発そうな女生徒たちが描いた村のビジョンには、高層ビルや飛行機、新幹線も登場していた。それは現代の都市の姿そのもので、もし彼女たちの憧れをそのまま表現しているのなら、彼女たちは早晩この草深い村をあとにするだろうと思った。若者たちが描いたビジョンが暗示するのは、このタイの山村もまた日本の過疎の村と同じような道をたどるということなのか。「経済成長」の結果、日本のように山村から人々の姿が消えてしまうことのないことを祈った。
片倉和人
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