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農・人・くらし

NPO法人 農と人とくらし研究センター コラム

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「気違い農政周游紀行⑦」 女のくだらない話

body.jpg 「女性は子供を産む機械」と言って批判を浴びた厚生労働大臣がいた。柳沢という名の男の政治家だった。彼はあわてて発言を撤回して、反省していると弁明したが、それを聞いて、私の妻は、女が何に腹を立てたのか本当に分かっているのだろうか、と訝っていた。彼の失言は他人事でない。
 妻の言うところによれば、出産は機械のように簡単にできるものではない、という反発だけでなく、女は他にもたくさん大変なことを背負っているのに、たった一つの機能(役割)だけにスポットが当てられている点が許せないのだという。極言すれば、大臣は「女は子宮だ」と言ったも同然なのだろう。男女の差異をことさら強調しただけにとどまらず、人間という生身の総体を、頭や手足や胃袋というふうに、バラバラな部位に切り離して論じてしまったのである。
 「男は仕事に没頭すると、それ以外のことはすべて女のくだらない話に聞こえる。」
 私が発したこの一言で、調査に同行してくれていた地元の女性の普及員さんの顔色が一変した。生活関係の農業改良普及員だった。彼女の口から「私は今ここからすぐに帰りたい気分」と、きつい非難の言葉が続いた。忘れもしない、「家族経営協定」の調査を始めて一年目、北海道富良野の畑作農家におじゃまして家族を前に聞き取り調査を行っていたときのことである。それまでは、男女共同参画推進に関する仕事は、自分にその資格がないと思って避けてきた。しかし、2004年、職場が変わったこともあり、家族経営協定の効果に関する調査研究を私が担当するはめになった。
 あのときの彼女の態度から、そんな発言をする人は家族経営協定の調査をする資格がない、という強いメッセージを受け取った。彼女に指摘されなければ、自分の口から無意識に出た「女のくだらない話」という言葉の意味をその後何度も問い直すことはなかったと思う。
 今日の時代、没頭しなければならない「仕事」(「稼ぎ」といいかえてもいい)に就いているのは、なにも男に限ったことではない。だから、ことさら「女の」と言わなくてもよかったと思われるかもしれない。しかし、問題なのは、「くだらない」と感じている話の中身の方であり、それには女性が深く関わっている。
 私たちの生活は実に多くのこまごまとした事柄から成り立っている。今夜の夕食のおかずを何にするか、子供が受験する進学先をどこにしたらいいか、町内会から通知のあった一斉清掃にでられるか。妻が語りかけてくるこうした話を、私は、時にぼんやりとした心持ちで聞き、しばしば聞き逃すこともあった。
 自分がどういう意識をもって暮らしていたか。20年間妻が私の何に怒っていたのか。情けない話だが、北海道の普及員さんに指摘されて、ようやく分かった気がした。私は、生活というものを軽視していたのである。
 個々の家事労働に関しては、対等とまではいかなくても、相応の分担を果たしてきたつもりでいた。しかし、会社に経営者と労働者がいるように、家庭を管理と労働の二つの部門から成り立つ組織とみるならば、家庭生活において、私は実際の労働は分担していたかもしれないが、管理責任の方はほとんど放棄していたに等しかったのである。
 全くもって遅い気づきだったけれど、気づかないでいるよりずっとマシであった。だから、家族経営協定と北海道の普及員さんにはとても感謝している。

片倉和人
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