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農・人・くらし

NPO法人 農と人とくらし研究センター コラム

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「気違い農政周游紀行④」 生物に餌食あり

 定年を過ぎた従兄弟が庭の手入れのついでに、実家の庭先に小鳥の巣箱を2つかけていった。一つは蔵の軒下に、もう一つはガレージの鉄骨に、いずれも3m足らずの高さで、人通りのある場所である。昨春、一つにヤマガラが、もう一つにシジュウカラが巣作りを始めた。家の者は、子育ての邪魔をしないように巣箱の前の行き来に気を使いながら一春を過ごした。
tokage.jpg 家には現在2匹の雌猫がいる。ペットとして飼っているのではない。猫がいないと貯蔵している穀物がねずみの被害を受けるからである。小鳥が猫にやられないか心配だったが、初夏には雛は成長して無事に巣立ったようだった。
 秋も深まったある日、蔵の前に置かれた椅子の上にうずくまる野良猫を母がみつけた。長年この辺りを縄張りにしてきたふてぶてしい雄猫で、隙をみては家猫の食べ残しの餌を盗み食い、古くからいる家猫の一匹は毎年決まってこの野良猫の子を宿した。だいぶ弱っている様子で、「こんなところで死ぬなよ」と母が声をかけると、ウーと一声うなり声をあげたという。翌朝、椅子から落ちて野良猫は息絶えていた。
 春も近い冬のある日、若い方の家猫が、スズメより一回り大きな野鳥をくわえて、さっそうと家の中に入ってきた。家猫の習性として、獲物を捕ると、得意げに家の人にみせるのである。しかし、家の中に持ち込んで安心したのか、一瞬の隙をついて、野鳥が猫の口から自らを解き放ち、大騒ぎになった。ムクドリだった。
 台所に逃げ込んだ獲物を追って猫が宙を飛び、手負いのムクドリの灰色の羽毛があたりに舞い散る。猫と鳥の壮絶な捕り物が始まるや否や、それを追いかけるように、父と母の罵声が飛び交った。驚いたのは猫の方である。
 83歳の父は、箒を振りかざして、「野鳥がかわいそうだ」と言って、家の外に逃がそうとする。それを見て、78歳の母が椅子に座ったまま「せっかく捕ってきたのに、かわいそうなのは猫の方だ。逃がさないで、捕らしてあげればいい」と平然と見ている。父は怒って、「猫には餌を十分にやっているのだから、かわいそうなことはない」と声を荒げた。すると母が言い返す。「獲物を捕るのは猫の本能なのだから、そんなこと言っていると、ねずみも捕れなくなってしまう。」
 この一件で学習したのは猫の方で、野鳥を捕まえて家に持ち込んでも人目につかないところに隠すようになった。しばらくして廊下の物陰に野鳥の死体をみつけた。猫の餌食になったのはツグミだった。
 猫を飼っていて厄介なのは、生まれてくる子猫の始末である。ねずみ対策には1匹いれば十分だが現在は2匹。3匹いたこともある。子猫の運命を握っているのは人間で、いわば神のような存在である。神の役は無情でないとつとまらない。この嫌な役を父と母は分担する。「間引き」のように目も開かないうちに隔離して始末するのは母の役で、子を探す母猫が不憫で1匹だけ乳離れするまで大きくして「桃太郎」のように川に流すか、「姥捨て」のようにどこか遠くに遺棄するのは父の役である。
hebi.jpg 死んだ祖父がよく「生物に餌食あり」と言っていたと母から聞いた。いたいけな子猫が他の獣の餌食になることかと想像したら、虫でもカエルでも餌にして子猫は生きていくという意味のようだ。主客が入れ子状になっているのが、生物の食物連鎖の世界である。運がよければ人様に飼われるか、そうでなければだいぶ暖かくなったからカエルでも何でも捕って生き延びるだろう。もうどこかに棄てに行かなければならない。そんな会話が父と母の口にのぼるようになっていた矢先、庭で遊んでいた子猫が神隠しのように突然姿を消した。縄張りの雄猫に追い払われたか、かわいい子猫だったから誰か人に拾われて連れていかれたか、と父と母は不思議がっていた。家業を受け継ぐならば、この嫌な神の役も同時に引き継がなくてはならなくなるので、自分ならどうするか密かに逡巡していた。今は回答の期限が延びてほっと一息ついている気分である。
 食べるということは他の生き物の命を奪う残酷な行為なのだが、この当たり前のことを、近頃盛んになっているという「食育」ではどのように教えているのか、そんなことがふと気になった。

片倉和人
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農と人とくらし研究センター

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