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農・人・くらし

NPO法人 農と人とくらし研究センター コラム

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農業で懐かしさを取りもどす試み 5.山羊を飼ってはみたけれど

koyagi.jpg 山羊を飼うのは田舎暮らしを始めたときからの夢だった。実現までに2年かかった。助成金を使って、山羊小屋を建て、ザーネン種を2頭、仲間が下伊那の子山羊市で競り落としてきた。区民に名前を募ってミサとサワと名づけた。仲間と手分けして、毎日の餌やりや冬場の餌の確保など、山羊の世話をしている。
 悩みを抱えているときなど、山羊が無心に餌を食む姿に、なにもかも忘れてつい見入ってしまう。悩みなど一切ないという食いっぷりの良さである。邪心がないというか、犬や猫とちがい人にこびる気配を感じない。山羊を見ているだけで、なぜか心が癒される。
 正月元旦に盛りがきたミサを連れて原村で雄山羊を飼う知人を訪れた。24時間いつでもスタンバイOKといきりたつ雄山羊の姿はあからさまで、交尾は一瞬で終わった。私は、人という動物のわが身と重ねてその異同を想った。6月に2頭の雌から、雄2匹、雌1匹の子山羊が生まれた。2ヶ月育てて雄2匹を手離してから、本格的な乳搾りの作業が始まった。
 子どものときは山羊乳が嫌いだったが、今飲むと結構おいしいと思う。市販の牛乳と比べ、甘みに欠けるが、濃厚な味がする。餌をしっかり与えれば、2頭で1日6リットル近く搾れる。かつて山羊乳を飲んだ思い出をもつ人は、懐かしさから一度は飲んでみたいという。実際に飲んでみると、思ったほどではないらしい。飽食の現代では、どんな山羊乳でも、食糧難の時代の記憶の味にはかなわないのか。
 初めのうちは近所の子たちが興味をもち、上手に搾って持ち帰ってくれた。が、すぐ飽きて来なくなった。今は私の娘と二人で搾ることが多い。引き取り手のない乳を使って、フレッシュチーズやプリンを作るなど、使い道を模索している。
 とはいえ、山羊が生み出すのは乳だけでない。山羊がいるから、土手や荒地の草刈り労働も餌づくりの作業に変わり、収穫物の残滓も山羊の胃袋を通って肥料に変わる。分断された関係をつなぎなおす特異な役割を果たしている。
 
片倉和人(農と人とくらし研究センター代表)
『長野県農業普及学会報』第16号 2011年9月より転載
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