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農・人・くらし

NPO法人 農と人とくらし研究センター コラム

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田んぼ事情

happa.jpg ついこの前、田植えが終わったと思ったら、あっという間に稲刈りも終わって、田んぼは静かに冬支度に入っています。
 私は田んぼ全部を人に作ってもらっていて、だから、人の米作りについてとやかくいう資格はないのだけれど・・と思いつつ、でも気になっていることがあるのです。
 ここ2~3年、周辺の田んぼの様子が変です。ヒエがびっしりと生え茂って稲が見えないくらいの田がそこかしこに見受けられます。しかも、年々増えて来てます。稲刈りまで、そのままです。
 決して「無農薬栽培」が増えたというようなことではないと思います。
 普通、田植えの時に、除草剤を入れます。水管理をうまくやれば、一度の除草剤でほぼ大丈夫です。少しは草が生えます。以前はそれを「田の草取り」といって、腰を曲げて手で取っていました。
 最近は、田に這いつくばって草取りする人の姿はほとんど見かけません。除草剤の効能がアップしたせいもあるし、「少々の草には目をつぶる」人が増えたこともあるのでしょう。
 でも、本当にここ2~3年のことですが、「少々の草」なんて次元ではないヒエだらけの田があちこちに出現して、年々増殖しつつあります。
 いったい何が原因なのでしょう。
 じつは、うちの隣のMさんの田がうちのすぐ前にあります。おじいさんは先年亡くなって、おばあさん一人暮らしです。86歳です。田畑の管理は隣町に住む息子さん(60歳)が来てやっています。去年も田はヒエだらけになり、稲刈り前になって、おばあさんが稲より高く伸びたヒエを鎌で刈り取りました。何日も何日もかけて。
 でも、その時はすでにヒエは実って種を落としてしまっていたのです。だから、今年もヒエびっしり。そして今年も稲刈り直前におばあさんが鎌でやっぱりヒエを刈りました。
 おばあさんがヒエを刈る理由は「めんどうしいから」です。「めんどうしい」とは「恥ずかしい」という方言です。60歳の息子さんにとって、ヒエだらけの田は別に「恥」でもないのでしょう。
 どうやらこのあたりに、ヒエ田増殖の秘密がありそうです。
 米を一生懸命作ってきた「お百姓さん」たちが死んだり、動けなくなったりして、しかし、次の世代は「ずっとサラリーマン」だったわけで、米作りの技術も精神もうまく伝達出来ていないままなのではないかと思うのです。「ヒエを生やしていたらめんどうしい」と思って、せっせと田の草取りをしてきた先人たちは、老いて「腰の曲がった老人」になりました。そのことを思うと、今、後継者たちが、ヒエを取らないことを安直に批判することも出来ません。
 「ヒエ取りして、米が少しくらい多く出来ても、それでなんぼ儲かるってもんでもなし」という声に答えられる人がいるでしょうか。
 ただ、何千年もの間、連綿と伝えられてきた「百姓の心」が途絶えていくことに、無念の思いが残るのです。

渡辺ひろ子(元・酪農家)『私信 づれづれ草』NO.20(2009.10.31発行)より転載
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