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農・人・くらし

NPO法人 農と人とくらし研究センター コラム

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おだやかな表情のゆくえ(上)タイ国の農村を一日歩く

 タイ国北部ピサノローク県の山麓にあるバンドン地区の村に、昨年(2007年)8月、私はほとんど何の予備知識もないまま立っていた。二日後にここでJICA(国際協力機構)研修生たちが村人とともに「環境・地域資源点検マップ調査」を実施することになっており、準備のために私は一足先に現地入りした。タイの農村を訪れるのは初めてで、数年前に隣国ラオスの村で生活改善のワークショップを行った経験が唯一の頼りだった。
 11名の研修生は、アフリカやアジアの国からJICA集団研修「持続的農村開発」コースに参加している行政官やNGO職員たちである。修士号の取得を目指して、筑波大学大学院で11ヶ月にわたって学び、その間、カセサート大学の協力でタイ国において3週間のインターンシッププログラムが組まれている。研修生たちはチェンマイを訪問した後に、ピサノロークに到着することになっていた。私の役目は、現地演習の指導に当たることであった。研修生たちが日本で学んだ住民参加型むらづくりの方法をタイの農村の現場で実際に使ってみるという試みだった。
 歩いて二時間くらいの点検ルートを定めるために、炎天下の村を一日かけて歩き回った。案内役をつめてくれたのは、ピサノロークの農地改革事務所(ALRO)の職員とバンドン地区の村のリーダーたち。タイ語の通訳をつとめてくれた英語のわかる地元大学生メイさんを含め、みなとても協力的だった。この地を実習現場に選び、地元の協力者を手配しておいてくれたカセサート大学農学部のタワンサックさんに感謝した。
 立派な家の庭先には決まって、雨水を貯めるコンクリート製の水瓶と衛星放送を受信する黒いパラボラアンテナが、大きさを競うように並んで置かれていた。水瓶は、ユニセフの国際援助で普及したものだそうで、水瓶を使って「なまず」を養殖している家もあった。養殖はJICAのプロジェクトで紹介したとのことだった。山から引かれた水道設備がある区域もあり、料金も高くないそうだが、飲料水はもっぱら水瓶の雨水を使っているという説明だった。
 糸取りや製茶を共同で行っている場面に出くわした。一軒の家の庭先で女性たちが数人集まって黄金色の繭を釜で煮て生糸をつむぐ作業を行っていた。この村では養蚕は行っていなくて、繭は他所から購入しているとのことだった。糸を取った後のさなぎの入った洗面器から、二、三個つまみ食いさせてもらった。口に入れて噛むと薄い外皮がぷちっと破れた。中はねっとりと液体状で、昆虫特有のたんぱく質の味がした。製茶の作業場では、携帯用のガスコンロを使って何かの葉を炒っていた。お茶を入れてもらって試飲してみたが、味は日本のお茶とはどこか違うようだった。
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thai1-3.jpg たった一日見て回っただけだが、この山麓の村の暮らしぶりは、私が知っているフィリピンやラオスの村と比べて、総じて豊かな印象を受けた。この地の人びとがどんな歴史を辿ってきたのか、私は全く無知である。長生きしても険しい表情の人が少なくない日本と比べて、歳をとった女性たちの表情や物腰がとても穏やかに見えた。ういういしい少女の面影をそのまま残しているように思えた。

片倉和人
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農と人とくらし研究センター

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